食後、数時間から数日経ってから、頭痛、肩こり、めまい、下痢、疲労感、肌荒れ、ニキビ、アトピーなどの症状が現れる遅発型フードアレルギー。かゆみ、じんましん、呼吸困難などの急激な症状が食べた直後に出る即時型のアレルギーと異なり、比較的軽微な症状であるため、病院でも体調不良の一種と片付けられてしまうケースもあります。
陸上競技を中心に、アスリートのコンディションを科学的にサポートする研究と実践を長年続けられている杉田正明先生は、この「遅発型フードアレルギー検査」がスポーツ選手のコンディションづくりに有用であることに着目されています。その杉田先生に、オリンピック選手への検査実施のを通して感じた、遅発型フードアレルギー検査の重要性について伺いました。
澤登 実際に選手の監督やコーチには、どのように説明されたのですか？
杉田 ある女子の陸上選手は、定期的に湿疹、むくみ、体調の悪さが出る状況が続いていて困っていました。そこで、フードアレルギーが原因である可能性もあることを監督に話したところ、是非やってみましょうということになりました。
澤登 実際に検査を受けてみて、結果はどのように伝えられたのですか？
杉田 この選手の場合、最高レベルのアレルギー反応が、重要な栄養素に出ていました。オリンピック直前という微妙なタイミングだったこともあり、伝え方が非常に難しく、監督、選手、栄養士と私でミーティングをしました。その選手はある一定の時期に体調が悪化することが判っていたんですね。
そこで、その一定の時期だけは、アレルギー食物を食べないようにする、という方法をとったところ、湿疹、むくみといった症状が全く出なくなったんです。これは、選手にとって、非常に精神的な安定につながりました。選手からもアレルギーが判って本当によかったという感想を聞くことができました。
澤登 トランポリン選手の場合はどのように進めていったのですか？
杉田 トランポリンもメダルが有力視されていた競技でした。同時に、非常に僅差の戦いになることも分かっていました。そこで、僅かな差が命取りにならないよう、「食べてはいけないもの」を調べる必要があるのではないか、ということを戦略会議の中で提案し、代表選手3人に検査を受けてもらいました。
澤登 その後は、どのように対応したのですか？
杉田 メダルに近いとされていた伊藤正樹選手に、重要な栄養素へのアレルギー反応が出ました。オリンピック1ヶ月前ということもあったので、あまり神経質になり過ぎずに、でも、重要な局面ではできるだけアレルギー食物を避ける、ということを心掛けてもらいました。
本人は、アレルギーが自分にあったこと自体に非常に驚いていましたが、身体に悪い影響を与えているものが判ってよかったと、ポジティブに捉えてくれています。そして、オリンピック後も、出来るだけアレルギー食物はとり過ぎないように心掛けているとのことでした。
澤登 アレルギー反応が出た場合、代替品を摂るということはすごく重要なポイントです。例えば、卵は大事なタンパク源。アレルギー反応が一番多く出る食物ですが、全く食べなくなってしまっては、たんぱく質不足となり、パフォーマンスが落ちてしまうこともありえます。
それは、トップアスリートにとっては命とりです。バランスが悪くなることを避けるために、栄養学的、科学的なサポートは絶対に必要です。
これは、一般の方も同じですね。反応が出たので食べないでくださいで終わってしまうのは、我々が提供する医療ではありません。アレルギー反応を抑えると同時に、栄養的にもマイナスをもたらさずに栄養バランスを整えていくことが我々の役目。そこでは、コーチングが重要になってきます。一方的な教育だけではなく、医療者が一緒に同じ方向を向いて目標に向かうことが大事だと思っています。
杉田 澤登先生のクリニックでは、コーチングが受けられるんですよね。
澤登 はい。我々のクリニックでは、全スタッフ（医師、看護師、サービスコーディネーター）が「認定メディカルコーチ」の資格をもち、食生活や生活習慣の改善に向けたサポートをしています。