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2006年09月07日

高齢男性のアルツハイマー病と低テストステロンの関連性

2004年に発表されたリサーチによると、たんぱくと結びつかない単体ホルモンであるフリー・テストステロンの血中値が低い高齢男性は、同年代の男性と比べ、アルツハイマー病の発症リスクがより高くなる可能性があることが分かりました。この観察研究は、低値のフリー・テストステロンと診断の何年も前のアルツハイマー病を関連させた最初の研究と考えられています。

この研究は、2004年1月27日に発行された医療ジャーナル「ニューロロジー」に掲載されました。研究は、国立老化研究所(NIA)の研究者と、同研究所(NIA)の資金助成に支援される他の研究所の科学者らによって行われました。

「血中の低テストステロンがアルツハイマー病の発症に関連している可能性があるという発見は、加齢した脳、およびその他の身体の部位に対する性ホルモンの効力の可能性を理解するために一歩前進したと言えるでしょう」と国立老化研究所(NIA)の研究者であり、本研究の共著者でもあるスーザン・レスニック博士はコメントしています。

しかし、レスニック博士は、低テストステロンとアルツハイマーの因果関係を確立する前に、もっと多くの研究が必要だと警告しています。「アルツハイマー病と血中の低テストステロンとの因果関係が確認できたとしても、ホルモン療法やその他の治療でアルツハイマー病を安全に予防できるかどうかとは別の問題です」と博士は言います。

レスニック博士、スコット・モファット博士らは、ボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に参加した32歳から87歳までの男性574名のテストステロン値を調べました。研究者たちは、平均19年間にわたり、対象者のフリー・テストステロン値とトータル・テストステロン値および、その後のアルツハイマー病の診断との関連性を考察しました。身体的、神経学的、神経心理学的な検査に基づき、574名中54名がアルツハイマーと診断されました。

リサーチ・チームは、血中のテストステロン・インデックスが50%上昇するごとに、アルツハイマー病発症のリスクが、およそ26%減少することを発見しました。加齢とともに全般的なフリー・テストステロン値は下がるものの、後にアルツハイマー病と診断された男性のテストステロン値は、もっと急激に下がっています。実際、研究の最後に、アルツハイマー病と診断された男性は、そうでない男性と比べて、平均して半分の血中フリー・テストステロン値しか測定されませんでした。また、あるケースでは、アルツハイマー病と診断される10年も前に、フリー・テストステロン値の急激な減少が検知されていました。

またレスニック博士らは、血中フリーテストステロン値の高い高齢男性は、そうでない同年代の男性と比較して、視覚的記憶、言語的記憶に優れ、空間的な作業を困難なくこなせることも発見しました。

「血中のフリー・テストステロンには、加齢の脳に対して多用な影響を及ぼす可能性があります。ある種の記憶喪失や、アルツハイマー病発症におけるテストステロンの役割については、やっと調査が始まったばかりです」とレスニック博士は述べています。

男性の場合、テストステロンは、精子と同様に精巣という生殖腺内で生成されます。ホルモンの生成量がピークを迎える思春期や成人期の初期と比べて、加齢とともに精巣のテストステロン生成量は減少していきます。体内では、テストステロンは、グロブリンと結合している性ホルモン(SHBG)に結合する傾向にあります。しかし、一部のテストステロンは、単独のまま血中を循環します。SHBG結合型のホルモンと異なり、フリー・テストステロンは脳内への循環も可能で、神経細胞に作用します。「フリーテストステロン値の減少だけが、アルツハイマー病と関連づけられる」とレスニック博士は述べています。

その他のボルチモア加齢縦断研究(BLSA)は、70歳以上の高齢男性のテストステロン値は、若い男性と比べて低いと示唆しています。処方された男性ホルモン補充療法の実施が可能であるものの、未だホルモン療法の作用の多くは明らかににされていないため、現段階では安易に勧めないほうが賢明かもしれません。まだ正確にはわかっていませんが、例えば、テストステロン補充療法は、男性の癌による死亡原因第2位の前立腺癌のリスクを高める可能性があります。さらに、男性のテストステ
ロン補充療法は、場合によっては、赤血球の過剰生成の誘因になることがあります。この副作用は、血液の濃度を高め、脳卒中のリスクを高くします。「学ぶべきことは、まだたくさんあります。現時点では、高齢男性のアルツハイマーのリスクを下げたり、一般的な記憶力や認識行動を改善するためのオプションとしてテストステロン療法を考慮すべきではないでしょう」とレスニック博士はコメントしています。

米国医薬研究所(IMO)が率い、老化医学研究所と米国立癌研究所(National Cancer Institute)がサポートしている総合委員会では、高齢者の身体に対するテストステロンの作用に関する長年に渡る数多くの疑問に答えるために、高齢男性を対象にしたテストステロン補充療法の治験の実行の是非について査定しました。

国立老化研究所(NIA)では、アルツハイマー病の兆候があり、テストステロン値の低い高齢男性の治療におけるテストステロンの有効性を測定するために、将来的に、米国医薬研究所(IMO)の提言にのっとった小規模の治験を開始する可能性があると発表しています。入念に治験が行われるまでは、テストステロンが著しく欠乏した多くの高齢男性に対するホルモン療法のリスクおよび効果は、明らかにされないままなのです。


*1958年に発足したボルチモア加齢縦断研究(BLSA)は、米国で最も長く、人間の加齢について科学的な調査を行っています。研究の参加者は、ボルチモアに所在する国立老化研究所ジェロントロジーリサーチセンター(the NIA Gerontology Research Center)で、2年毎に医学的、生理学的、神経心理学的な総合検査を受けています。またボルチモア加齢縦断研究(BLSA)では、1963年より参加男性のテストステロン値を測定しています。

投稿者 : kenkoo 09:41 | トラックバック (0)

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2005年12月26日

アルツハイマー病:最も残酷な泥棒

アルツハイマーは高齢者を襲う最も残酷な病気です。身体の指令センターを侵食するこの神経退行性疾患は、まず記憶を盗み、次に身体機能を奪い、5年から15年の過程で最終的には人生まで奪ってしまいます。
この疾患の治療法は見つかっていません。アルツハイマー病は、500万人を人質にとっており、その大多数は70歳以上の高齢者です。アメリカにおける死亡原因の第4位を占め、65歳以上の高齢者のうち10パーセントがアルツハイマー病を発症しており、85歳でこの数は50パーセントまで上昇すると推定されています。
アルツハイマー病は、社会の負担額が最も高い疾患でもあります。直接的、間接的なコストは、年間1000億ドルを超え、2050年までに1500万人以上の被害者を出し、国家の財政負担を容易に現在の4倍に膨れ上がらせるでしょう。

この病気を引き起こす遺伝性の遺伝子変異を有する少数の人を除き、ほとんどの場合は家族歴には関連がなく、その原因は明らかにされていません。


ジョン・トロノヤウスキ医師
「確かに、数々の研究で、アルツハイマー病の発症リスクを高める外的な要因があることが示されている。例えば、ボクサーは、一度も頭部外傷を負ったことのない人と比較してリスクが高い。またエストロゲンを服用していない閉経後の女性は、服用している女性と比べて、アルツハイマーに罹患する可能性が高い」

ペンシルバニア大学神経変性疾患リサーチセンターで、共同ディレクターを勤めるジョン・トロノヤウスキ医師は、こうコメントしています。同医師は、ペンシルバニアのアルツハイマー病センターの理事長でもあります。

アルツハイマー病の顕著な特徴は、アミロイドプラークと呼ばれる不溶性の異常たんぱく質の沈着、および神経原線維のもつれによる脳の病変にあります。正常な脳内物質が異常な状態になり、神経原繊維変化という髪の毛の様な糸くずに変化し、脳内に凝集がおこると病変をきたすと考えられています。脳細胞が互いに会話をしなくなると萎縮し、記憶や論理思考の衰えの原因となります。

未だアルツハイマー病の予防法はありませんが、発症を遅らせるためにできること(例えば遺伝学など)はいくつかあります。

家族にアルツハイマー患者がいる場合は、この疾患に関与する遺伝子検査を受けることを考慮しましょう。アルツハイマーの遺伝子を有することが、必ずしもこの疾患に罹患しやすいということではないことを念頭においてください。どんな検査オプションがあるか主治医とよく話し合うことです。

○頭脳ゲーム

新しいスキルを習う、クロスワードパズルやクイズなど頭の体操に挑戦し、脳の健康を維持します。例えば、子供の宿題を手伝う、他の人の学習を手伝うといったことも知的筋力の刺激になります。

○学校へ行く

より多く教育を受けるほど、アルツハイマーを発症する可能性が低いことが統計で明らかにされています。長時間授業を受けることが、脳内のプラーク形成やもつれの実質的な予防になるかどうかは科学者達にもわかっていませんが、記憶や見当意識障害の進行を遅延させるという証拠はあるのです。

○頭を保護する

頭部外傷や、短時間の意識不明でさえ記憶を奪うことができます。無用な怪我の防止には、いかなる時でも、ヘルメットやシートベルトを着用する時間を惜しまないことです。

○賢く食べて、健康生活

葉酸とメンタルヘルスには強い関連性があることが研究によって証明されています。緑の葉野菜、シリアル、パンに多く含まれるこの栄養素は、先天性欠損症の予防だけでなく、脳の主要な学習や理論を司る領域の萎縮も防ぐとのことです。1日に最低でも400ミリグラムまたは、マルチビタミン剤に通常含まれる量の摂取を多くの医師が推奨しています。脳卒中とアルツハイマー病には強い相互関係があるので、定期的な運動、血圧のチェックおよび禁煙などを実行し、脳卒中を起こす可能性を減らしましょう。

○友人との付き合いを続ける

家族や友人と付き合いのある高齢者は、孤独を好む高齢者より、アルツハイマー病の兆候が現れる時期が遅いことが研究によって明らかにされています。元気を保ち、精神的退化を遅らせるためには、大切な人達と一緒に過ごすことです。

現時点でアルツハイマーに対する最善の薬といわれるものでも、その効果は薄い、とトロノヤウスキ医師は述べています。より効果的な治療法は、具体的な研究段階にあり、すでに開始されている予防注射を伴う臨床治験などが行われています。

注目すべき研究では、脳内の沈着物の生成に必要な酵素をブロックする方法や、プラーク形成後に沈着物を一掃する「プラーク-バスティング」物質の発見に焦点を当てています。

近年の研究は、「現在から5年後のアルツハイマー病の治療を変える強力な一撃を持つ。」とトロノヤウスキ医師は予測しています。同医師は、ペンシルバニア大学神経変性疾患リサーチセンターにおいて行われるカンファレンスでアルツハイマー病の最新リサーチの発表も行いました。

まだ疑念はありますが、一般的に科学者らは、ベータアミロイドと称する物質が、アルツハイマー患者の脳内に異常な沈着物の生成および凝集を促進する触媒であると考えています。彼らは、ベータアミロイドを生成する2つの酵素の発見という、大きな飛躍をとげたのです。科学的サークルのセオリーは、この酵素のうち1つもしくは両方をブロックできれば、ベータアミロイドの生成を減少させることができ、アルツハイマー病の進行の遅延、あるいは発症の予防が可能かもしれないというものです。

製薬会社の多くは、2つの酵素の抑制剤の研究開発に着手しています。エラン社は、抗体アプローチをテストする臨床治験を実施中です。エラン社の研究者であるアイバン・リーバーガーグ医師は、アルツハイマー患者が過剰な量のベータアミロイドを生成しているというセオリーには賛成していません。それらを十分な速さで除去することは不可能だと、彼は考えています。
同医師のワクチン接種は、蓄積物を一掃するために脳細胞内の反応を誘発させる抗体を生成します。一旦アミロイドが抗体で標識されると、そのアミロイドの検知、分解、掃除ができるのです。

「マウスの実験では非常に良い結果を出した」と同医師はコメントしています。「罹患前のマウスに免疫性を与えると、意外なことに、マウスの脳内にはベータアミロイドが生じない。すなわち、マウスにおいては、事実上、アルツハイマー病の罹患を予防ができるのだ。既に中程度のアルツハイマーを発症しているマウスの場合、この抗体は病気の進行を止めたり、場合によっては後退させたりすることができる。マウスの実験ではいつも成功するのだ。しかし、マウスは人間とは異なる。よって人間に同じ治療をした場合、どのような結果が出るかはわからない。マウスでの実験結果にわずかでも類似した結果を出すことができたとすれば、アルツハイマーの治療において劇的な突破口になるだろう。」

免疫療法のバリエーションとして、the Center for Neurologic Diseases at Brighman and Women's Hospitalではケアギバー(介護者)が容易に投与できることから、経鼻ワクチンの研究に取り組んでいます。シンシア・レメル医師によると、免疫ブースターを使用すると抗体の生成が劇的に増加し、著しいプラークの減少が見られました。また、ワクチンを投与されたマウスの血中アミロイドが増加するという予測外の発見もあったのです。これは、抗体が、損傷した物質を脳内から引き出し、クリアランスのターゲットとされている血中に留めたということを示しています。

アルツハイマー病の治療は、未だ科学の追及の手を逃れていますが、研究者達は、脳内のプラークともつれの根本からの拡大をストップさせる魔法の弾丸を発見する日はもうすぐそこまで来ていると信じているのです。

投稿者 : kenkoo 13:35 | トラックバック (0)